第1章

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 先に入っていた茶髪のアンチャンが馴れ馴れしく聞いてきた。 「経済犯だけど」 「フーン、そうすか。頭いいんですね」  そんなことあるか、冤罪! 「そちらは?」 「窃盗っす。ドロボー、ハハハ。参っちゃうよ」 「送検?」  「検事調べっす。あ?あれ? お、おい……。今の奴、前に刑務所一緒だったんすよ。あいつこの前……」 「(なんだいこいつら)」 「初犯だよね」 「そうだよ」 「自分なんか六回目ですよ六回目」 「へえ?」 「自分、こう見えても高校生の息子いるんですけどね。若いころに結婚してさ」 「息子さん心配してるでしょう」 「分かんないじゃないすか。嫁が引き取りましたからね。参ったなあ。今回は三年四年は食らうだろうなあ」 「嫌でしょう?」 「仕方ないっすよ。でもまあ、金あるし、心配ないっすよ」 「金あるんだ?」 「ありますよ。窃盗五十件ですからね。」 「…」 「近頃現金はあまりないね。まあ、あっても、五十万、三十万、二十万位だね。宝石とか時計だね」 「フーン」 「七、八百万隠してますからね。出てきたら必要ですもんね、ハハハ」 「(人の金だろ)」  やっと、検事に呼ばれた。 検事の部屋は、刑事の取調室とは違って、普通の会社の事務所のようであった。検事の前では手錠ははずされるが、椅子のすぐ後ろで警官が俺の身体をくくりつけたヒモを持っているので、何だか腹の立つ惨めな光景ではある。  検事は三十代の見るからに超エリートといった感じの男である。 「逮捕事実の、逮捕事項は分かっていますね」 「……」 「これから読み上げますので、間違っているところがあれば言ってください」  逮捕状に書いていた文面を読み上げた。 「間違いないですか?」 「あります」 「どこですか?」 「工事をする意志も能力も無いという所です。それを意志も能力もあったと直してください」 「その当時、会社は相当苦しかったが、意志も能力もあった。しかし、やむを得ず会社は倒産したが、はじめから騙すつもりはなかったで、いいですか?」  「いいです」 「あなたを調べるのに、四十八時間ではとても無理ですので、十日間拘留の延長をしますのでね、いいですね」 「……」  この書類が、次の裁判官のところに回される。
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