第1章

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 ここでもバカみたいに長い時間待たされた。たまたま、タタミの部屋だった。ひとりはすでにかなり待たされているようで横になって眠っていた。あまりかかわりを持ちたくないような人物だったので、入り口付近で座っていたら、これぞ現役! バリバリ!のヤクザが入ってきた。こういうのにはなるだけ目線を合わせないようにしたほうがいい。でもチラチラと見ているような気がする。  実は、俺はこういう奴に追われている身だ。会社が苦しくなり、ついつい知り合いに紹介されヤクザに金を借りた。十日に一割という利子。はじめは百万円だったが二百万、三百万と膨らんだ。三百万円なら十日間ごとに三十万円の利子を払わなければならない。それでも何とかして二百万円を返し、百万円がのっこった。ぜんぜん催促をしてこない。それはそれでまた違った意味で恐怖だ。  チラット視線があった。無視するわけにもいかず、軽く目礼を送ると、ヤクザはニコット笑った。意外に若い。 「何したんですか?」  と、聞かれた。 「詐欺容疑」 「自分もそうですよ」 「へえ」 「昨日の新聞に載ってたでしょう、教材の」  そういえば、たまたま今朝回ってきた昨日の新聞にそういうのがあった。 「ああ、見ました」 「それですよ」 「失礼ですが、菱形のかた?」 「いや、自分は丸住です」  菱形は山口組。丸住は住吉会。 「お宅は?」 「カタギですよ」  人を見て物を言え! とは言えない。  そこに、ヤクザを連れに警官がきた。手錠をはめている間に 「警察、どこ?」 「仙北です」 「こんな太った、小宮山っつうのがいるから、よろしく言っておいて。私、花田。じゃあ」  警官に引っ張られていく後姿に哀愁が漂っていた。  裁判官室にいくと、いかにも硬そうなオヤジが大きな机の向こう側に座っていた。脇には書記官であろうか、どこかのブローカーみたいな信用のなさそうな男がいた。  裁判官は検事と同じようなことをいい、聞き、検事と同じように直し、十日間の延長が決定した。  こうして、拘留延長期間を十日間延長させるために、検事を通して裁判所にお伺いを立てるわけだが、お伺いとは名ばかりで、書類が流れ作業のように許可へと流れていくのであった。
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