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逮捕状だってそうだ。かなりいい加減な、さもありそうな文書で裁判所に請求をして、それでも却下された例はどれほどあろうか。こんなことで人間の自由を束縛していいのか疑問である。誰が誰に対して書類を提出して、誰が誰に対して許可をしているのだろうかと思う。そしてその書類はいったい、最後にどこに行ってしまうのか?
留置場に戻ると全員夕食を終え、ラジオを聴きながらの、唯一の憩いのひと時であった。
ケリーが迎えてくれた。手錠をはずしていつもの身体チエツク。
「今朝の新聞あります?」
「今朝の? もう駄目ですよ」
「手、洗っていい?」
俺は手を洗いながら
「いい男だよね、ハンサムだしさ」
「え?」
「よく言われるでしょう?」
「そんなことないですよ」
ニコニコして頭をかいている。
「たとえば、正統派の刑事でさ、爽やかさが売り物の、そうねえ、「刑事ケリー」なんてどう?」
「その気になっちゃうじゃないですかア」
ニコニコしている。
「さ、行きます」
ケリーは歩き方まで嬉しそうだ。鍵を開けてくれた。
「新聞よろしく!」
「あいよ!」
新聞の仙台版を開いてみた。教材購入者は、その世界では宝の山みたいなものらしい。親が子にかける期待なのか、見栄なのかは知る由もないが、とにかく教材は売れるらしい。
「奥さん、その名簿消しましょうね。でないと後から後から大変ですよ。もう何年も教材買わされてますよね」
といいながら、登録抹消料と称して数百万円を銀行に振り込ます。被害総額一億円以上という。その資金が暴力団の資金源になっていると県警はみて捜査している。その記事の中では、総責任者、住吉会係??組組長、花田透(仮名・二九才)と、あった。
「あんたいくつだっけ?」
「ハイ、私、もうすぐ三十です。」
「ほう、片や親分、片やオタクか…」
正統派オタクはまだメソメソしていた。
「ほら、これ」
俺は注文していたノートと便箋を下村に放り投げた。
「メソメソメソメソしたって仕方ないだろう。そこに自分の思いのたけを書いて、彼女のことに対して済まないという気持ちがあったり、心から思ったなら書いてみなさい、すっきりするよ」
「え? いいんですか?」
「いいよ、但し、今度の火曜日に同じものを頼んで返してくれよ」
「それはもちろん」
「ボールペン、貸してくれるよ、そこから、大きな声で『すみません、六号です』って呼んでみな」
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