第1章

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「四人は蜂の巣。逃げる二人を、ワシは匕首を抜いて追っかけた。二人はようよう逃げたと思ったらそこは行き止まりよ。ワシはその一人をこう掴まえて」  サブはモリタケンサクの襟首を捻り掴んで、目と目の間を横に匕首をビシッと 「キ、キャッ…、た、助けてください…」 「男の目玉がポロリ」 「ワア…、イヤダ……」 「そしてもう一人は、腸をグサッ」  モリタケンサクはほとんど失神状態になっていた。 「オイ!サブ!」  入り口を見ると、大勢の警官がこの風景を見ていた。その中の長老格がサブに声をかけていた。 「あ、ダンナ」 「ええ加減にせえよ」 「ハ、ハイ。どうも」  警官たちはそれぞれの持ち場に移った。  まるで何が起こったとばかりにキョトンとしているモリタケンサクに向かって、サブは言った。 「ガハハハ、嘘だよ」 「嘘!?」  それはソプラノ歌手の口のあけ方、目は歌舞伎役者がミエを張る目で言った。 そんな嘘、こんなトコで「有りかよ」みたいな顔をしている。 「なに盗ったの?」 「私は盗んだつもりはなかったんですよ。友達の家に遊びに行ったら、留守だったので…。それで帰ろうと思ったら、友達の車があったので、なんか疲れちゃって。運転席のドアに鍵がかかってなくて、座って待っていたんですけど…。すぐ返すつもりで勝手に借りて行こうと…。家のドアにも鍵はかかって無くて、しょっちゅう遊びに来てるので車のキーがどこにあるかも知っていたので。それで乗って帰ったんです」 「ハハーン…」 「つい電話するの忘れてたら、大騒ぎになって…」 「何日くらいたってたのっしゃ?」 「一週間」 「そりゃだめだっちゃ」 「友達は警察にそうじゃないって言ってくれたんですが…。女房の方がかなり怒ってて…」 「そんな女一発やっちゃえや!!」  (エッ!!)俺は椅子から落ちるかと思った。 「やるんですか?」  モリタケンサクも乗る。本当は乗ってるように見せかけて「そんな馬鹿な」といってるのだ。  今日も留置場に帰ると夕飯はすでに終わっていた。  今日のお出迎えは、この留置場では一番やさしい国会図書館の子供の本の係りのような金田さんだった。 「どうもごくろうさんでした」  と、迎えてくれた。  下村はいくらか元気を取り戻したようだ。  ノートにまるで偏執狂のようにビッシリ書いた文字が畳のうえにあった。 「お疲れ様でした」 「いくらかいいか?」
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