第1章

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 別居はしているが、今でもメール交換はしている。「お父ちゃん、あのね、どこそこに行きたいんだけど、三千円頂戴。なかったらいいよ」。いち早く茶髪にして母親や祖母に顰蹙を買っていた。高校にもあまり登校せず悪友と呼ばれる奴らと行動をともにし、夜遊びも頻繁なころもあった。服装も化粧も派手で人一倍目立った。  しかし、この子は人一倍優しい。神経の細かい娘である。優しすぎる上の誤解も多々あって、本人は悪いことはしていないと思っている。理解してあげろと妻(前)に言うと、「あなたの甘さが原因」と食いつかれる始末であった。今、俺が留置場にいることを警察からも知らされている。どんなに心配かけていることかと思う。泣き虫ですぐ泣く。おそらく飛んで来たいのだろうが、「接見禁止」をつけられているので、弁護士以外は面会も出来ない。しかし、俺は父親のこんな無残な姿は断じて見せたくない……。 「はい。デザイナーになろうと思っています」 「グラフィック?」 「いえ、服飾の」 「それなら仙台より東京のほうがいいよ」 「私もそう思っています」 「私もここを出たら、東京に行こうと思ってるんですよ」と、下村。 「へぇ、いいっすねぇ。何やさんですか」 「土木の方、橋とか道路とか」 「頭いいんだ」 「そんなことないって。ただ、ここを出たら違う仕事をしようと思ってるんだ。会社にも迷惑かけたし、戻れないもんね」  辛辣なんだなぁ。そんなつもりじゃなくても、結果的に犯罪になってしまうこともあるんだから。  この青年も、また軽はずみに金儲けに走らずに夢の実現に進んで欲しいものだ。  夜七時に洗面の時間。 八時の「捜検」の時間までと、九時の消灯時間までは本も読めない。文字も書けないという悪習がある。  下村は、七号の二人といつのまにか友人関係を構築したらしく、金網越し、壁越しに話している。部屋の奥はトイレで、トイレの出入り口の脇が奥まっている。そこに金網があり、裏側の廊下が見える。下村はそこの金網越しに隣の若者と話しをするのだが顔も姿も見えない。声だけが隣同士ということになる。他愛ない話から、つい話題はお互いの刑についての物になってくる。お互い番号で呼び合ったいる。 「六の一さん」  早速下村は定位置にいった。 「ハイ」 「弁護士付きました?」  普通の声の話し声でも両隣には聞こえるので、下村がメソメソしているとき
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