第1章

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「そんなにメソメソしている暇があったら、弁護士を決めたほうがいいんじゃないのか」 「エッ、弁護士って必要なんですか?」  こいつ、何にも知らないのか。 「裁判できないでしょ、いないと」 「エッ……。裁判なんですか?」 「多分な」  「弁護士かぁ…」 「誰もいなくても、裁判になったら国選弁護人が就くから心配しなくていいよ」 「国選って何ですか?」 「本当に知らないの?」 「よく知ってますね」 「常識だろうが!ボケ!」  からかわれているようでつい血が上ってしまった。 「すみません。本当に知らないんです。教えてください」  と、土下座した。 「あのな、裁判というのは怖いものじゃないんだよ。逆に言えば、裁判を受ける権利があると考えたほうがいいんだよ。裁判官はどちらの味方でもない中立な立場。検事は告訴人の立場。君の味方は弁護士ということになるんだ。その弁護士がいなければ一方的な裁判になるんじゃないか」 「犯人だらけになりますね」 「まぁな。で、国選弁護士というのは、その被疑者に誰も知り合いもない。お金もない。そういうときに国がその被疑者の人権保護のために税金で弁護士をつけてくれるんだ」 「私それでいいです」 「自分で決めな」 「私が調べている刑事さんて、いい人なんですよ。「示談」取ったほうがいいぞって言われたんですよ。示談ってどうすればいいんですかね」 「弁護士に聞きな」 「その国選ってやつですかね」 「知るか!国選だか私選だか朝鮮だか!」 「すみません。そんなに怒らないでくださいよ」  俺はここで大きく息を吸った。そうでもしなければこの馬鹿青年を殴りかねない。 「ここの係官に聞いてみな。弁護士会に電話をしてもらって当番弁護士を呼んでくださいって。二十四時間以内に来てくれるはずだよ」 「本当ですか?」  俺がギョロッと睨むと「すみません」と、首を引っ込めた。  それから下村はすぐに留置場の係りに連絡を取ってもらい当番弁護士を呼んだ。  「示談」? 金かかるよ。百万くらい。弁護士費用も同じくらいかかるよ。用意できる? 私は出来ないよ、忙しいから、他のもの寄こすわ。と、言って帰ったらしい。 「頭にきましたよ。あんなのが弁護士ですか。ありゃブローカーですよ全く」 「……」 「なぁにが百万だよ! コノアホンダラ! 弁護士は弱い者の味方じゃナインカ!こら!」 「!!」 「って、言ってやりたいですよね」 「知らん」
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