第1章

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 弁護士も強姦や痴漢などの事件は余りやりたくないニかもしれない。全女性を敵に回しかねないのだ。  二日待っても三日待っても次の弁護士は来なかった。弁護士会の名簿から無作為に選んで電話をしてもらったが多忙を理由に断られたことを七号室の青年は知っているのだ。 「まだ決まらないんですよ」 「ふーん、困ったね」 「七号さんは?」 「私は国選ですよ」 「国選と私選はどう違うんですか?」 「そりゃ全然違いますよ。国選なんか裁判の時三十分くらいしか打ち合わせしないよ。私選だったら来てくれといったら来てくれるし、裁判も早いと聞いたよ」 「そうなんだ…」 「六号さんは何やったんですか?」 「それはチョット…」  ソリャ言えないよな強姦未遂なんてなぁ。 「ふーん…。でも出来れば私選のほうがいいよ。お金あるんでしょう」 「ないっすよ」 「親は知ってるの?」 「刑事さんには親には言わないように頼んでおきましたが…」 「嫁さんは?」 「まだいません」 「親か嫁さんが承知しなければ難しいと思うよ弁護士つけるのは」 「そうなの?」  俺のほうを見たので、急いで目を瞑った。  「六号洗面」のこの留置場のハリキリおじさんの声に壁越しの会話は途切れた。  洗面所に行く途中五号室を覗くと、七十三才の爺さんのねばっこい視線とぶつかった。  この爺さん、執行猶予中の万引きらしく二?三年は覚悟してると言っていた。  四十才になる娘と、中学三年生、中学一年生の孫の四人暮らしである。上が女の子、下が男の子。娘は五年前に離婚し、女手一つで子育てしているところに、二度目の出所である父が転がり込んできた。  勿論「歓迎しない父」であったが、そこは肉親、夜の商売をしている娘は子供の看視の役目を兼ねて家に置いた。  この年で仕事があるかどうかは知らないが、俺もなるだけ仕事を探して働くようにするよ。お前ばかりの世話になるわけにはいかないもんな。  殊勝なことを言ったが、一向に仕事を探している様子もなく、昼間は皆が留守になることをいいことに娘の小銭や孫たちの部屋を物色してカップ酒を楽しんでいた。   くすねるものも無くなって来ると、昔の窃盗仲間に会って仕事を頼むのだが高齢を理由に断られる始末であった。 「おっさん、年金あるだろ?」 「あぁ、いくらも無いけどな。三万くらいだよ」 「立派だよ、それだけありゃ」 「何が立派なものか、三十万もありゃそう言えるけどな」
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