第1章

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留置場に初めて入った。 こういう言い方はおかしいが本当だから仕方がない。無論自ら入ったのでもなく、喜んで入ったわけでもない。  逮捕され簡単な取調べの後ここに入れられたのだ。留置場入り口のドアを開けたらここは留置管理課の管轄で、被疑者の最低の人権を守ってくれるところなのか、手錠ははずされる。ここには一号室から十号室くらいあって俺はそこの六号室に入ることになった。  二人部屋で先に入っていた男が六号室の一番で、六の一、俺が六の二という呼び方でこれからは呼ばれるそうだ。ポチやシロみたいなものだろう。  もちろん初めてだから右も左もわからない。  ここに入る前の簡単な取調べのとき、俺を逮捕した当の本人の刑事に聞いた。 「どうするんだよ」 「まあ、挨拶くらいせえや」という。 「こんにちは、はじめまして」と、恐る恐る開けられた檻の中に入っていくと、ヤクザは優しい目で「どうも、よろしく」といってくれた。  すぐにヤクザは取調べに呼ばれたので、おいていった雑誌を見せてもらった。「騙す方、騙される方」という題名であった。ヤクザはどっちだろう。ほかに漫画が二冊あった。  檻の中は四畳半くらいの板の間に、畳が三枚敷いてある。固定してないので簡単に移動できる。トイレが奥の隅にあり窓は透明のプラスチックだ。しゃがんでいる姿は見えないが、音は聞こえる。早速隣の部屋から立小便の音が聞こえてきた。屁もくしゃみも聞こえる。  ヤクザが戻ってきた。何だかニコニコしている。 「なにしたの」と、儀礼的に聞かれた。 「…」  何も言ってないのに「フーン」といって漫画を読み始めた。 「だったら聞くなよ」とはいえない。  でも、反対の立場なら、やっぱり聞きたいだろう。ヤクザのほうは聞かなくてもわかる。絶対「シャブ」だ。 「どのくらいいるんですか?」           「一年位かな」 「一年?」  こんなところに一年もいるのかよ。  代理監獄ってやつだ。  また係官が来た。またヤクザが連れ出された。檻のトビラの音がすごい。マスターキー、セカンドキー、鉄の棒が横にスライドする鍵が二つご丁寧にかかる。以前檻から逃げたやつがいたのか? 「こんなところに閉じ込めやがって。」寝転んで天井を見ても、どこを見ても、絶対逃げられそうもない。  ヤクザが戻ってきて本を片付け始めた。 「どうしたんですか?」 「出るんだよ」 「そう、よかったですね」
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