第1章

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「それでもカカァがいていいなぁ……」 「だけどいい娘さんでいいよな」 「あいつが可哀そうでな。せめて俺に若いときのように仕事があればなぁ」 「良くか稼いだよな」 「稼いだなぁ」 「お、もう八時だ。帰らなきゃ」 「おう、帰れ帰れ。俺ァまだやってるわ」 「お休み、幾らだ」 「いいよいいよ、今夜は出しとくよ」 「悪いなぁ。お休み。明日、イタトマで会おうや」 「おう、十時な」 大きく手を上げていく相手。 ややおいて、流石一人じゃつまらないのかフラフラ出てきた爺さん。 「利子が三万、奴に五万、焼き鳥屋で五千円。残り二十一万五千円」 と、ぶつぶつ言い、ポケットに手を入れながら手探りで残りの金を勘定していた。「久しぶりの感触、いいねぇ」。 二月の冷たい風も焼酎の湯割で温まった身体に気持ちが良かった。 その風が一枚のビラをフワリと運んできた。 「何だ?」 拾ってみると「ホテトル」のチラシであった。二時間一万二千円?「こんなかわいい娘、いるんかいな?」 「出来るかなぁ。考えてみるともう十年もしてない……。食うのが精一杯だった。ほとんど刑務所暮らしだからなぁ……。考えてみたことも感じたこともなかったなぁ……。電話だけでもしてみようか……。いやいやいや、この金は娘にやったほうがいい、ただで厄介になってるんだ……。   「もしもし、チラシみたいな娘いるの?」  どこかの連れ込みホテルに入ってもう一度電話してくれと言われ、急ぎ足でホテルに入り電話をした。四十分後に来ると言う。爺さんはシャワーで髪を洗い、髭を剃って、身体を洗い、準備万端整えて待った。  ドアがノックされたのは丁度四十分後だった。  三十半ばの少し太った女だった。 「あら、もう寝てるんですかぁ」 「シャワー浴びて早くおいで」 「焦らなくても、時間サービスするっちゃ」  石鹸の匂いをさせながら、バスタオルで身体を巻いて女がベッドに入ってきた。バスタオルを取ると「ビロビロボロ?ン」と言う具合に裸が現れた。  爺さんは早速その豊満な乳房にむしゃぶりついた。太った身体のあらゆる所をあらゆる事をしたのだが、自分のものはピクともしない。 「ね、お爺ちゃんいくつ?」 「七十三だ」 「まだ、大丈夫よ。私が何とかしてあげるから、仰向けになってワ」  最後の「ワ」は命令口調のとき良く使う仙台弁。  女は甲斐甲斐しく……。爺さんはピクともしない。
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