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「お酒飲みすぎよ。若い人だってそうだもの、今度少ししか飲まないときに呼んでね。年だからって気を落としちゃだめよ、ね」
だと言って一万二千円請求され「また電話してね。今度こそ大丈夫よ、私エリカよ」と、言って帰っていった。
爺さんは急に悲しくなった。若いときは地方公務員として働き、四十才で友人と産業廃棄物処理会社を興して一儲けをした。
嫁ももらい娘が生まれた。
妾も囲った。勿論妻には内緒だった。
毎晩のように銀座、赤坂、六本木に繰り出した。妾以外にも数人の女がいた。営業部を任せていた友人が政治家に賄賂を渡し、社長と友人が逮捕され長い裁判の末、実刑となり刑務所に入って、釈放されたときにはすでに会社は解散し、女性関係を知った妻は娘を連れて逃げていた。
そのときの爺さんは六十才であったが、当然昔の勢いもなく、一度失敗した男が再び這い上がるのは並大抵のことではなく、一からやり直すには年を取りすぎていた。儲ける知識はあっても資金は無く、当時の人脈の付き合いも薄れてきて連絡も取れなくなっていた。そうなればついつい付き合うのもブローカー連中と言うことになっていたのだ。
詐欺で捕まり、窃盗で捕まり、強盗で捕まったりしている内にこの年齢になっていたのであった。
爺さんは何を思ったか仙台駅の方角に歩き出した。
埼玉にいるという元妻の所に行ってみようと思ったのだった。
発車間際の東京行きの新幹線に飛び乗った。
心地よい酒酔いと新幹線の揺れにすぐに眠りについた。
眼が覚めると大宮駅であった。大急ぎで下りて駅近くのビジネスホテルで一泊した。
翌日早めに春日部に着いた爺さんは軽く腹ごしらえをして住所を頼りにタクシーに乗ると、かなり走ったところの小集落にその住所はあった。
タクシーを待たせ歩いて探すことにした。
住所近くにかなり古い一軒家から妻らしい女が洗濯物を抱えて出てきた。
爺さんは久しぶりに見る元妻の姿に愕然とした。自分の年齢も忘れて……。
「! あ、あなた……」
「うん……」
「なによ、今頃」
「入っていいか?」
土間と和室が二つの家であった。
茶を出してくれた。
「一人か?」
「一昨年から一人よ」
「死んだのか」
「うん……。あなたは?」
「見たら分かるだろう」
「どうしてるの?」
「娘に世話になってるけど……」
「そういらしいわね、電話あったわ」
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