第1章

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 返すといっても自分専用のロッカーがカウンターのそばにあって、各ロッカー番号が書かれている。六―二とか。その中に逮捕されてきた当時の私物と、歯磨き粉や石鹸、洗濯石鹸、シャンプー、本、ノート、便箋、封筒等を入れておくことができる。これらは自弁(自分の金)で購入しなければならないが、金がなければ(官のもの)を最低限あたえられる。  夜八時に「捜検」というギシキがあって、部屋順に来るのだが、カーテンとトビラがいきなり開けられ、「出ろ!」と威張られる。出て行くと制服姿の係官がトビラの外に勢ぞろいしていて「ギョッ!」とするのもつかの間「タタミたてかけて!」と命令されて、また元に戻されて、全部のタタミを壁にたてかけなければならない。そして布団がしまわれてある別のところにある押入れに布団を取りに行くのだが、そこでも身体検査が行われる。ボディチェック、金属探知機が身体に這わされ、そのうちに他の三?四人の係官がタタミの表、裏側を入念に調べてタタミは元の通りになった。  こんなに物々しくやらなくともいいと思うのだが、もしかしたら、どこかの警察署で極左の被疑者を留置したとき身体のどこかに隠し持っていた小型爆弾がタタミの裏側から出てきたとか、夜中に油をなめる音がするので、調べてみるとタタミの裏側から油が出てきたとか、女が隠れていたとか、大判小判がザックザック……そうでもなければこんなことをするわけがない。
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