第1章

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 押入れからフトンを持ってきて、房に入ろうとすると、またデカイ男たちが三?四人が部屋の中で直立不動で待っている。その中にフトンを持っていくと、フトンに包まれて悪戯されるのではないかと思ったら「キャ!」といってフトンを放り投げて外に出るほうがいい。外に出ると「壁に向かって!」とどやされる。両腕をうしろにして係官がフトンを敷くまで振り返らずに待っていなければならないのだ。それでもこっそり見ると、三?四人がかりでフトンを持ち上げたり、振ったり、擦ったり「何かを探してるんですか?」と、聞きたくなる。多分、どこかの警察署でフトンの中から怪しいものが見つかったのだろう。ピストルとか金属バットとかミヤコハルミとか・・。そうでなければこんなアホなことをするはずがない。「よし!」と言われて、部屋に入るとカーテンを勝手に閉めて「おやすみ」と言って、またバカが隣で同じことをやっている。それから消灯までじっと部屋の中で待つしかない。読書も筆記も夜の洗面の時間までである。考えてみればショッチュウ身体検査するのは自殺防止なのかもしれない。  本当に、はじめは自殺でもしたくなるような屈辱感に襲われる。夢を見ているのではないかと思う。夜九時に自動的に消灯されるが、眠れるものではない。屈従させられる悔しさに歯軋りをするのだ。  妻のことをおもう。  朝八時半に逮捕され、妻も起こされ簡単な家宅捜索があり、あわただしかっただけで、キチンと別れもできないままに……。  今頃は心配していることだろう。妻はいつも人一倍俺のことを心配してくれる。かわいそうに……。  朝は六時に起床。部屋の前に順番にバケツと箒、雑巾が置かれて、フトンを押入れにもっていき、トイレと部屋の掃除をしなければならない。そして朝の洗面。ここでもほかの部屋のものに会うことになるが、みんなよほど人恋しいのかすぐに打ち解ける。係官もあまりうるさいことは言わない。とくにヤクザには。洗面が終わると本や筆記用具等をロッカーから出して部屋に戻る。下着など着替えたいものは着替えてもよい。  二人部屋の一人が出た関係上タタミを一枚取り上げられた。つまりタタミ二枚になったわけだ。  留置場の係官は皆、概ねいい人で、まるで動物園の飼育係のようなものだ。
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