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朝から昼の間に二十分間の「運動」と称した時間があって、檻から出され別のところのベランダに行き、天窓から少しの空が見えるところでタバコを吸うことができる。二本が限度だ。この時間は髭を剃る事ができるのだが、充電式の電気カミソリだけが許可されている。ここでも貸してくれる。
一人部屋になった関係上、一人での運動の時間がもったいないからか別の部屋からの二人と一緒だった。
二十一歳の若者は「風俗っすよ、二十日ももらっちゃた」
四十七、八は「詐欺、逮捕時の所持金二十円、ハハハ」
意外にここにいる奴らはみな明るい。確かに深刻になっても仕方がないのだ。ここでは何も始まらないのだから。裁判が始まるまでは。ここで吸うタバコは格別だ。この二本で本日は終了ということもあって余計にそう思う。
逮捕された原因である「事件」の取り調べは午前、午後、夜と何度かある。
取調べが、例えば昼を過ぎて行われる場合「被疑者に昼食を与えてください」と係員からクレームをつけられると強面の刑事も従わざるを得ないのである。これも警察の温情ではない。世論を気にしているだけなのだ。留置管理課といって刑事課とは全く別の、被疑者や代理監獄として収容されている者の最低の人権を守ってくれている。これだって好意なんかではない、世論を見据えてのことだ。
部屋には各自一枚の毛布が与えられているので、それを被っていたずらに年中眠っている者、腰に巻いて本や雑誌を見ている者、漫画が圧倒的に多い。小机を借りて、後悔の念から手紙を書く者……。
六時半に朝食の弁当が配食される。
その後、昨日の新聞が順番に回される。この留置場にいる者の関連のある記事は黒塗りされている。ある面が真っ黒のときもあったりする。俺の時もそうだったらしい。「新聞はすべて正しい。自分が遭遇した事件以外は。」誰かの言葉だ。
「ピンポーン」と、一般家庭にあるようなチャイムが鳴ると、係官がのぞき穴から確認をしてトビラの鍵を開ける。
「××調べ!」
と、外の刑事が書類を差し出しながら言うと、係官はその部屋の鍵を開けて「六ー二さん、調べ!」と、まるで自分が一端の刑事になったような張り切りようでいう。「三文ポリ」と被疑者から揶揄されているのを知ってかしらずか。特にここの「ケリー」は。
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