第1章

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 五階にある留置場から四階の取調室まで行くのにも手錠をかけられる。そしてまた身体検査、金属探知機。どこかの警察署で何か困ったようなものを盗まれたのか。裏ビデオの注文書とか…。そうでなければこんなアホなことを毎回するわけがない。  取調室までは担当の刑事と、その補佐役の刑事がヒモを引いて連れて行く。 「認めるしかないんだよ。この資料見てみな、一年かけて作ったんだから」 「意思も能力もないのに、契約を取ったんだよな」 「ぜんぜん違うね」 「どこが」 「意思はありました。能力も」 「ふざけんな! この!」 「怒るとこじゃないでしょ」 「怒ってねえよ」  色々あって、本日の取調べは終わった。取調べ中はタバコはいくらでも吸うことはできる。  六号室に戻り読書していると 「六―二さん、今日から一人入りますのでよろしくね。六―一さんということで」         なぜかケリーは親指を立ててウインクした。 「どうも……」  まるで「正統派オタク」といった感じの青年が入ってきた。そして壁にもたれて頭を抱えて泣き出した。  混乱して泣いているのか?  後悔の念なのか?  良いことをして逮捕されたのか……いや、それは考えにくい。 「何したの?」 「……」  青年はまたひとしきり泣いた。参ったなあ、こいつとずっと一緒かよ……。  一時泣いた青年はキチンと座りなおして 「強姦未遂です」と、言ってまた頭を抱えた。  こういうところに、良いことをして連れてこられる奴はいないのだから、こういう聞き方はよくないと反省。 「私はやるつもりはなかったんです。前に一緒に住んでいた彼女に逃げられて、寂しい気持ちもあって、子供のころ三人兄妹の中で、私だけが物も貰えない時期があって、どうしてもその娘と友達になりたかったんです」と、訳の分からない言い訳を始めた。 「私はどうなるんでしょう」 「さあ?」 「刑務所行きでしょうか?」 「知らないよ、俺も初めてだし」  俺こそ冤罪だと思っている。お前のような単純な事件ではないのだ! と、咽喉まで出かかったが、やめた。  ラジオではエフエム放送が流れ、昼の弁当が配便されたが、青年は一口しか食べられなく、溜息ばかりである。はじめはそうだ。俺もそうだった。今も半分がやっとだ。
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