第1章

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 エフエム放送が消されると一時だ。時計というものがないから後は勘で時を図ることになる。係官がショッチュウ見回りしているので水か湯を頼むことはできる。ここに来るまでは、お湯が飲み物だとは気がつかなかった。と、思うくらいありがたい。  午後二時。午後の取調べ。「獲れたてのピチピチ」だから刑事も張り切っている。 「水がいい? お茶?」 「どっちでもいい」 「じゃあ両方置いとくな。自由に飲んでいいよ。タバコもな。これから取調べをするが、喋りたくなければ喋らなくてもいい、黙秘権があるからな。わかった?」 「分かった」    凄い量の資料を携えている。 「我々県警と仙北署がダンボール三十個分をこうして調べたんだ。会計士の資格のある者も加わってな。もう言い訳はできないよな」 「そりゃ、あなた達、ユウシュウ??な人たちが長い時間何人もかかって調べたんでしょうし、出てきた数字は多分、こちらに資料は何もないのだから分からないけど、概ね合ってると思うよ」 「そうだろ」 「でも、だからと言って罪は認めないよ」 「認める認めないはあなたの勝手だ。いずれ認めざるを得なくなるから」 「そうですか?」 「そうだよ」 「タバコ吸っていい?」 「ああ、いいよ。自分のだからな」  こんなやりとりがあって、午後の取調べは終わった. 「夜もやるの?」 「ああ、もちろん」 「あ、そう」 「なんで?」 「俺、病気持ちだから」 「え?」 「え? じゃないよ、逮捕しに来たとき女房に言われたろ? 薬も持たせたじゃないか」 「そうだそうだ、ごめんごめん。じゃあ夜は中止」 「(そうかい。そういうのかい)」  また手錠をかけられて留置場に戻ると、またまた入り口でボデイチエック。「俺、今、こいつらに連れてこられて、この階のひとつ下の取調室に行っただけなんだよ。何を探しているのよ?」と、言いたくなる。恐らく、どこかの警察署で刑事が牢屋の鍵をこっそり渡し、その報酬に女を紹介されたけれど、その女がすごいブスだったから刑事は怒ってこういう取引は二度としてはいけないというオフレが出たのだろう。そうでなければこんな馬鹿げた……。  六号室に戻ると、正統派オタクはまだ頭を抱えて泣いていた。  夜の洗面、歯磨き等も終わり、消灯。正統派オタク下村君は眠れないらしい。
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