第1章

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「友人と飲んでて、帰り際に偶然会ったんです……。前にナンパして、メルアドを交換してメール一度来ただけで来なくなって……。それで、何でメールくれないんだと聞きたくて……。何も言わなから、ずっとツケて行って、アパートに入ったので私も無理やりに入ったんです。それでひたすらお願いしました。付き合ってくださいと……。ヤラせてくださいって……。彼女は向こうを向いて何も言わなかったので、パット抱きついて……アソコをいじりました……。弄っているうちに彼女のほうからキスをしてきたんです……。彼女の方からですよ。それでやろうと思ったんですけど……。できないんです。こんなことなかったんですけど……。外で車のエンジン音が聞こえたので、彼女が急に「出て行って!早く!」と叫んだんです……。今、考えると、親か男が来たのかなと思いますけど……」  一週間が過ぎ、彼女のことも忘れ、下村は普段の生活に戻り、仕事をし、残業をし、少しの酒と「自己啓発」の本を読んでその日その日を暮らしていた。「天網恢恢疎にして漏らさず」。ついに彼女の告訴により逮捕されたのだった。  俺だってまだ一週間だ。なんでこんなトコに閉じ込められなければならないのだ!  会社が倒産しただけじゃないか。会社が倒産すれば多かれ少なかれ迷惑はかけます。どこをどう調べたら詐欺容疑になるんだ。このクソ刑事!!  翌朝、俺は弁護士を呼んだ。係官にその旨を言うと弁護士事務所に電話をしてくれる。会社の顧問弁護士である。  今日は、送検といって、逮捕した被疑者を四十八時間以内に取調べを行い起訴しなければならないが、たいていは無理で十日間の拘留延長の許可を裁判所に申請をし、認められれば十日間の拘留が決定する。大概は認められる。最大で更に十日間の延長がある。  検察庁に行く日なので、弁護士との面会は明日になった。  この仙北署からも四人が送検、または検事調べに向かう。皆同じように手錠、腰紐で繋がれバスに乗って検察庁にいく。一人の被疑者に一人の係官がつく。検察庁につくと仮監獄に入れられ、その中では手錠ははずされるが、トイレと水道の流し台がひとつと、固いプラスチックの三人がけの椅子が二つ向かい合ってある。その椅子に座って待つようになる。六、七時間待たされるのはザラである。それだけ被疑者が多いのか、検事が少ないのか……。 「なにやったんすか」
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