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伊達兵庫から伸びる簪の鈴をしゃらんしゃんと鳴らし、三枚歯下駄が、かららんかららんと歩を知らす。
舞台上、唯一光の当たるその中央までゆるりゆるりと進み。
壮麗絢爛なその装いと、不似合いな狐面を晒した後に、静静と頭を垂れる間。観客らは囁き一つ漏らさずに居た。
『時は彼方――わちきが、身を、顔を隠す前の語りでござんす』
しゃらんしゃん
三ツ指立てて身の上の如く語り始めた、狐面の上がるに従い鈴が鳴る。
『時に皆様方は、わちきを如何に思いおすか?』
ゆるりと傾げられる首と共にしゃらんらと。面越しの籠る声音でくつくつと喉を鳴らしては。
『売女、娼婦、淫売、遊女、わちきらを貶す言葉は仰山ござんすが。それらを買うのはいつの世も男でありんす』
『よう考えておくんなんし、好かねえと目を逸らさんと、よう考えておくんなんし』
廓言葉で艶やかに、ねっとりとねぶる如く声音のくせして。狐面のそれはしんしんとした場によく響く。
『時は彼方――わちきが、身を、顔を、隠す前の語りでござんす』
『毎星という此のお国、そん中にも小さな最詠の邑に産まれおす、姫の生き様を語りしんす』
『扇姫――』
背筋を正す狐面、しゃらんしゃんと。
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