4人が本棚に入れています
本棚に追加
嬌声にも似た甘やかな吐息が断続的に響く。
つぅ、と首筋を滑る唇に舌に身を捩るけれども、ギチリと両手首を縛り付けるネクタイが鳴くばかり。
短い黒髪は乱され、ボタンを千切られたスーツから覗く白磁の肌を玉の汗が滑り落ちて行く。落ち掛けた眼鏡の下で、彼の瞳は光を失い掛けていた。
「破壊神……もう止めましょう……」
苦し気に途切れる声、けれどもその合間に漏れるのは蕩けるような喘ぎばかり。
「ダメですよ管理神、僕は姉に逆らえない」
相対するのは癖のある赤毛を肩辺りまで伸ばした、髪色と似たパーカーにジーンズ姿の青年。
言葉を発する為に離れた口から、一筋の透明色をした糸が伸びる。ぷつんとそれが途切れた僅かな震動でさえ、管理神は僅かに身体を震わせた。
「管理神、僕の愛の為に壊されて下さい」
「く、誰が……!」
乱れたスーツから覗く管理神の鎖骨へと破壊神の唇が近付いて行く。その動作だけで襲い来る快感を想越したのか、管理神はきつく目を瞑り歯を食いしばった。
その隣室は向こう側が透けて見える作りであり、その前に三人の人影。
「ねー、何が面白いのコレ?俺つまんないー!シンタローと変わりたいー!」
広いソファーへと寝転がりながら興味無さげにしていた、中性的なショートカットの一柱がじたばたと足を投げ出すと。
「うへへ、最ッ高に面白いよ。病い神にはまだ早かったかな?
普段は攻める側の管理神が攻められている図というだけで、嗚呼――絶頂してしまいそうです……くふふっ……」
溢れ返る金の髪の間から狐の耳を覗かせる一柱が、慈愛に満ちた視線を病い神へ向け。
その矛先が透ける壁の向こうへ移ると共に、双眸へ猟奇的な光を宿らせながら。その指先を口元へと宛がい、恍惚の表情を浮かべた。
「腐り神、僕が言うのもあれだけど、君は変態がだだ漏れで扱いに困るよ」
そう口にした一柱も腐り神へ呆れた調子で告げた割には、被ったカエルを模したパーカーの下から覗く目元は壁の向こうに釘付けだ。
「蛙神さん、私の愛情は腐り尽きて歪んでいるだけなのですよ」
再びくふふと笑った腐り神、それっきりそちらの部屋は静まり返り。
二柱絡み合う隣室から聞こえる管理神の絶え絶えな呼吸音だけが響き渡っていた。
(了)
最初のコメントを投稿しよう!