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序章
これから読んでいただく物語は、ある小さな会社で起こった密告が原因で引き起こされた人間ドラマを忠実に描いたものである。世間でも注目されているサービス残業が発生していることを誰かが労働基準監督署に密告したことが始まりだった。
密告した犯人、それはなにを隠そう、この私だ。私が誰であるのかは物語を読んでいただく中でわかってもらうことにして、ここでは舞台となった会社のことを簡単に説明しておくことにしよう。
物語の舞台となったのは、東京池袋にある小島デザイン研究所という、販促物デザインの企画制作を行う会社だ。会社とはいっても、社長を含めて八人しかいない事務所みたいなところだ。
ここで、八人の紹介をしよう。
社長の名前は小島健一(四十五歳)、主に営業の仕事をしている。
その社長を支えているのが弟の小島浩二(四十二歳)だ。取締役管理部長の肩書きで、営業の仕事を手伝いながら、経理や総務の仕事を一手に引き受けている。
彼らの下に六人の社員がいる。そのうちの五人はデザイナーだ。パソコンでMacを駆使しながら、ひたすらデザイン作りに没頭している。彼らの名前と経歴を紹介しよう。
鶴見正樹(三十歳)と中山茂之(二十八歳)は、ともに転職組の社員だ。転職経験は、鶴見が三度、中山が一度ある。
残りの三人、井上将大(二十五歳)と江川大輔(二十四歳)、間島裕一(二十二歳)は、いずれも専門学校を卒業後、小島デザイン研究所に入社してきた生抜きの社員だ。
デザイナー以外に、事務担当の女性社員が一人いる。彼女の名前は加藤雅美(二十二歳)、高校を卒業後、一度の転職を経て小島デザイン研究所に入社してきた。
たったこれだけの小さな会社なのだが、ある日の一本の電話をきっかけに、ハチの巣をつついたような騒ぎに巻き込まれてしまった。
それでは、読者のみな様を、電話がかかってきた場面にご案内しよう。
第1章 密告
1.
「社長、お電話です」事務担当の加藤雅美の声に、社長の小島健一は顔を上げた。
「誰から?」
「ロウドウカントクショとか言っていました」
「ロウドウカントクショ?」健一が怪訝な表情を浮かべる。
「労働基準監督署のことじゃないですか?」隣のデスクでパソコンを叩いていた取締役管理部長の小島浩二が顔を向けた。健一の弟であった。
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