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それに対して安藤の口から語られたのは、サービス残業の実態を指し示す証拠の資料が同封された告発文が労働基準監督署に郵送されてきたということだった。その内容から、労働基準監督署は内部告発であると判断し、調査に乗り出したということだ。
告発文の現物を見せてほしいと口にした健一だったが、安藤から断られた。
2.
調査が終了し、健一は浩二とともに安藤をエレベーターまで見送った。安藤を乗せたエレベーターが一階に向かって降下する。
健一の顔は紅潮していた。こぶしを握り締め、口を一文字にしながら眼を大きく見開く。
「みんなに一言言うぞ!」そう浩二に声をかけた健一は、勢いよくオフィスのドアを開けた。オフィスの一番奥にある自分のデスクまで戻り、「みんな、ちょっといいか!」と声をかける。
その声に、六人の社員たちが顔を向けた。一様に、何事かというような表情を浮かべている。浩二も席に着いた。社員たちが話を聞く体制に入ったことを確認した健一が口を開く。
「先ほど、労働基準監督署からの調査が入った。要件は、当社にサービス残業が発生していないかどうかの確認だ」
「……」
「なんで、いきなりこんな調査が入ったと思う?」健一は社員たちの顔を見回した。内部告発ということは、社内の誰かが告発したということだ。健一が、一人一人に視線を当てる。
「内部告発があったからだ。現物は見せてもらえなかったが、労働基準監督署に告発文が送られてきたということは確認した」
「告発文ですか?」社員の一人が聞き返した。社員たちの間にざわめきが広がる。
「そうだ、告発文だよ。どんな資料なのかはわからないが、証拠資料も同封されていたようだ」
再び、社員たちの間にざわめきが広がった。互いに顔を見合わせる。オフィスの中に、誰が告発者なのかを探りあうような空気が生まれた。
そんな空気を尻目に、健一が語気を強める。
「細かく労働時間を計算して残業代もきっちり計算するのが原則だということはオレもわかっている。でも、うちのような小さな会社は、四角四面なことを言いあうんじゃなくて、みんなで支えあっていくべきなんじゃないのか? だからオレも、細かい口出しはせずに、みんなに自分たちのペースで作業をしてもらっていたんだ。……みんなと気持ちが一つになっていると思っていたのに残念だよ」
「……」
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