第1章

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 「せめて、不満があるのだったら、告発文なんか送らないで直接相談してもらいたかった。みんなのことを信頼していたのに裏切られたような気持ちだよ」  健一が口をつぐんだ。社員たちも言葉を発さない。浩二も、難しそうな顔をしたまま押し黙っている。  「以上だ。仕事に戻ってくれ」健一が、一方的に報告を終えた。  社員への報告を終えた健一は、浩二を外に連れ出した。会社の近くにある喫茶店に入る。  二人分のコーヒーを注文した健一は、テーブルに向きあう浩二に向かって問いかけた。  「なぁ、どう思う?」  「なにがですか?」浩二が質問の意図を問い返す。  「誰が犯人なのかということだよ」  「それは……、ちょっとわかりませんね」  「あの六人の中の誰かだろう?」  「そうかとは思いますが」  「そうかとは思うって、そうじゃなきゃ誰がいるんだよ。まさかキミか?」  「違いますよ!」心外だというような表情で浩二が手を振った。  「じゃぁ、六人の中の誰かじゃないか! 内部告発なんだから」  「そうですね……」  二人の目の前に、注文したコーヒーが運ばれてきた。会話が途切れ、二人がコーヒーをすする。二人の間を重苦しい空気が支配する。  しばしの後、コーヒーカップをテーブルに置いた健一が口を開いた。  「キミにやってもらいたいことがあるんだが」  「なんですか?」  「うん……。内部告発の犯人を見つけてくれないか?」  「えっ? そんなことをして意味があるのですか? まさか、密告者を見つけてクビにするつもりじゃないでしょうね?」  「そこまでは考えていないよ。でも、みんなも動揺しているだろうし、この際密告者を見つけ出して、直接話しあってスッキリさせたほうがいいと思うんだ。そのほうが、わだかまりが残らずに済むだろう?」  「そうかもしれませんけど……。でも、密告者を見つけろって言っても、どうやればいいんですか? 本人から名乗り出てくるとも思えませんし」  「本人から名乗り出てこなくても、調べれば、ある程度はわかるだろう? 一人一人と面談して話せば、ぼろを出すかもしれないし。オレが面談したら、みんな間違いなく口をつぐむだろう? まだキミのほうが話を引き出しやすいと思うから。それに、キミのほうが普段社内にいる時間も長いから、オレよりは社員たちのことを見ていると思うし」
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