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「せめて、不満があるのだったら、告発文なんか送らないで直接相談してもらいたかった。みんなのことを信頼していたのに裏切られたような気持ちだよ」
健一が口をつぐんだ。社員たちも言葉を発さない。浩二も、難しそうな顔をしたまま押し黙っている。
「以上だ。仕事に戻ってくれ」健一が、一方的に報告を終えた。
社員への報告を終えた健一は、浩二を外に連れ出した。会社の近くにある喫茶店に入る。
二人分のコーヒーを注文した健一は、テーブルに向きあう浩二に向かって問いかけた。
「なぁ、どう思う?」
「なにがですか?」浩二が質問の意図を問い返す。
「誰が犯人なのかということだよ」
「それは……、ちょっとわかりませんね」
「あの六人の中の誰かだろう?」
「そうかとは思いますが」
「そうかとは思うって、そうじゃなきゃ誰がいるんだよ。まさかキミか?」
「違いますよ!」心外だというような表情で浩二が手を振った。
「じゃぁ、六人の中の誰かじゃないか! 内部告発なんだから」
「そうですね……」
二人の目の前に、注文したコーヒーが運ばれてきた。会話が途切れ、二人がコーヒーをすする。二人の間を重苦しい空気が支配する。
しばしの後、コーヒーカップをテーブルに置いた健一が口を開いた。
「キミにやってもらいたいことがあるんだが」
「なんですか?」
「うん……。内部告発の犯人を見つけてくれないか?」
「えっ? そんなことをして意味があるのですか? まさか、密告者を見つけてクビにするつもりじゃないでしょうね?」
「そこまでは考えていないよ。でも、みんなも動揺しているだろうし、この際密告者を見つけ出して、直接話しあってスッキリさせたほうがいいと思うんだ。そのほうが、わだかまりが残らずに済むだろう?」
「そうかもしれませんけど……。でも、密告者を見つけろって言っても、どうやればいいんですか? 本人から名乗り出てくるとも思えませんし」
「本人から名乗り出てこなくても、調べれば、ある程度はわかるだろう? 一人一人と面談して話せば、ぼろを出すかもしれないし。オレが面談したら、みんな間違いなく口をつぐむだろう? まだキミのほうが話を引き出しやすいと思うから。それに、キミのほうが普段社内にいる時間も長いから、オレよりは社員たちのことを見ていると思うし」
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