第1章

6/205
前へ
/205ページ
次へ
 「労働基準監督署が、 なんの用なのだろう?」健一は浩二に問いかけた。 労働基準監督署という役所があることは知っていた。 社員の雇用に関する取締りをするところだということも知っている。 健一は、 労働基準監督署に対して、 税務署と同様に敵性のイメージを抱いていた。  「なんかの問い合わせじゃないんですか?」浩二が、 『とりあえず電話に出てみたら?』とでも言いたげな表情で言葉を返してくる。 細面にシャープな銀縁眼鏡の浩二は、 見た目はクールに見えるが、 実際も冷静な男だった。  健一は、 今の会社を立ち上げたときに、 会社員であった浩二に自分の右腕になってくれるように頼み込んだ。 健一は、 どちらかというと激情家タイプだった。 営業は得意だが事務系の仕事は苦手である。 自分にない部分をカバーしてくれる人材として、 弟の浩二は適任だった。
/205ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加