第1章

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 「私の見解、もちろん審議会や経済学者たちの見解を踏まえた上でのものですが、企業が抜本的な雇用政策を打ち出すことによって、最大三十%の労働者が一時的に離職するものと考えております。毎年行っている労働者意識調査の統計結果と照らし合わせてみても、最大離職率三十%というのは根拠のある数字だと考えています。離職期間についてですが、企業の活動を維持していくためには一定の労働力が必要であり、離職した労働者の大半が一年以内に新たな職に就くことができるものと考えています。また、ぜい肉をそぎ落とした企業の生産性が向上し、生産高が現行水準を上回るのに必要な期間が一年から三年という試算も出ていますので、結論から申しますと、三年後には今よりも失業率が改善された状態になるものと考えています」  「ということは、治安悪化への影響も心配ないと考えてもよいというわけですね」  「私は、そのように考えております」  「雇用保険の財源のほうは大丈夫なのですか?」経済産業大臣の鶴岡が、山岡に対して質問を投げかけた。一時的に急増する失業給付を賄う財源が確保されているのかという質問だった。  それに対して山岡が、失業給付総額の最大想定値を示した上で、現在の雇用保険の積立金で充分賄えることを説明した。積立金が潤沢であることについては、工藤財務大臣も口添えを行った。  その後も、細かい部分を確認するためのやり取りが行われ、次の通常国会に労働基本法廃止に関する法案を提出することについての閣議決定がなされた。  閣議決定されたことを受けて、厚生労働省主導のもと労働基本法廃止に関する法案が作成された。  内容は労働政策審議会の提言に準拠したものであり、関係諸法令の取り扱いや労働者の心身の安全、権利の保護に関する法令根拠を明確にした法案も作成された。  法案が、衆議院の厚生労働委員会に提出された。所属議員たちによる審議が行われる。  ここでも国民生活に与える影響や国家の成長戦略の視点からさまざまな議論がなされたが、総論としての見解は一致し、最終的な法案内容がまとめられた。  これにより、衆議院本会議で議論する体制が整った。 3.  年が変わり、通常国会が開幕された。国会内での激論が繰り広げられる。  前半は、税制改革や防衛に関する集中審議が行われた。与野党の主張が真っ向からぶつかり合う。
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