第1章

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 その結果、税制改革や防衛に関するいくつかの法案が成立した。法案成立率は七十%ほどだったが、重要法案はすべて衆議院を通過しており、大泉首相は満足した。  そして、労働基本法廃止に関する法案の審議に入った。  山岡厚生労働大臣が、本会議場で法案内容の説明を行った。税収や失業率への影響に関しては、シミュレーションを行った経済学者の何名かが説明に立った。  その後、与野党による審議の場に入る。  さっそく、労働者層や低所得者層からの支持が厚い共明党が質問に立った。労働基本法の廃止は、今まで以上に所得格差の拡大を助長することにつながりかねないので反対だというのが共明党の主張だった。  それに対して、大泉が、国家の成長戦略を実行する上で、雇用の分野を聖域扱いにするわけにはいかないという見解を口にした。山岡も、国内総生産が増えることで国民の所得水準が向上し、低所得者の割合が減るという見解を主張した。  共明党とのやり取りは物別れに終わったが、政権与党としての主張はすべて出し切った。  また別の野党から、本来労働者保護に関する政策責任を担うべき厚生労働省が労働者保護の法律廃止を掲げるのは矛盾しているのではないかという指摘がなされたが、それに対して山岡が、このまま国内企業の体力が低下し続ければ雇用の縮小や労働条件の悪化が進む一方であり、企業体力の回復を後押しする政策を打ち出すことで、中長期的な雇用の拡大、労働条件の向上という形で労働者側の利益を実現できるという見解を返した。  その後も与野党間でのやり取りが行われたが、厚生労働省が策定した法案の内容を一部修正する形で、法案が衆議院で可決された。  法案が参議院に送られた。  参議院でも似たような審議が行われたが、最終的に可決し、労働基本法廃止に関する法律が成立した。  廃止に関する法律は、その年の十二月一日から施行されることになり、官報に公布された。  新聞各紙も、労働基本法廃止を大きく取り上げた。  全紙が、総論では政府の見解に理解を示したものの、政府の対策が不充分だという指摘も行った。いずれも、企業の成長を促すための政策を具体的に示した上で、国民の理解を得るための充分な説明を行う必要があるという論調を打ち出した。
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