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「詳しいことは石川君から説明してもらう」手島が席に座った。
入れ替わりに、取締役管理部長の石川が席を立つ。
従業員たちに一枚の紙が配られた。そこには、「労働基本法廃止に伴う労務管理事項の変更について」というタイトルとともに、変更内容が記されていた。
石川が、無表情な顔で内容を読み上げる。
そこには、雇用契約の変更と賃金体系の変更という二つの事柄が書かれていた。
雇用契約に関しては、会社が個人ごとに契約条件を決めるという内容であり、所定の始業終業時刻や休日こそは今までと変わらないものの、有給休暇については個別に日数を決めるということだった。 成績の悪い社員の場合、有給休暇がないということもあり得るということだ。
賃金については、来月分の給料から、家族手当や住宅手当などの諸手当をすべて廃止し個人ごとに決められる基本給に一本化するということだった。今まで一般社員には残業代が支給されていたが、来月からはそれもなくなる。
さらに、月ごとにノルマが課せられ、ノルマに達しなかった月は、基本給からノルマに達しなかった分の金額を控除するというルールが発表された。ノルマをクリアーした人には、臨時のボーナスや休暇が与えられることもあるということだ。
従業員たちの間に動揺が広がった。
「なにか質問のある人はいますか?」石川が、従業員たちの顔を見回す。
何人かの従業員が手を上げた。
「ノルマに達しなかった月の給料控除は、具体的にどのように計算されるのですか?」
「個人ごとに控除単価を設定して、控除単価×未達成割合×百の金額を控除する。たとえば、控除単価が二千円でノルマ達成率が九十%だった場合、二千円×十で二万円が控除されることになる」
「毎月のノルマは、どうやって決めるんですか?」
「それは、課ごとに、部長と課長で相談して決めてもらう」
「新しい雇用契約は、いつごろ決めるんですか?」
「これから一人一人と面談して決めていく」
石川と従業員とのやり取りが続いた。
本村も手を上げた。
「就業規則はどうなるのですか?」
「当然廃止だよ。これからは個人ごとに雇用契約条件を決めるんだから、就業規則なんて必要なくなるだろう!」
「わかりました」本村は、浮かない表情を浮かべたまま返事をした。急激な変化に、頭が着いていかなかった。
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