第1章

2/115
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/115ページ
目次 プロローグ 第1章 虐げられた労働者たち  第1節 廃止  第2節 ノルマ地獄  第3節 会社都合の契約解除 第2章 共闘  第1節 大量離職  第2節 同士との出会い  第3節 団結 第3章 復活  第1節 政権交代  第2節 企業防衛策  第3節 理想の追求 第4章 道すじ  第1節 交渉  第2節 署名集め  第3節 新法成立 エピローグ プロローグ  麗らかな春の日差しが、体育館の中にも射し込んでいた。パーテーションで仕切られた相談ブースごとに学生たちが列をなしている。明光学院大学が毎年行っている卒業生向けの相談会イベントに参加した学生たちの列だった。  雇用管理分野の相談を担当する小林雄一郎のブースにも、起業を志望する学生たちを中心に集まっていた。相談者たちは、雇用に関する法律や従業員との接し方などについて質問をしていた。  マネジメントやマーケティングなどの起業に役立つカリキュラムを多く取り揃えている明光学院大学は、他の大学と比べて、起業コースを選択する学生の割合が高かった。  小林は、現在六十九歳、キャリア四十年のベテラン社会保険労務士だった。  労務管理のエキスパートとして数多くの相談に接してきた小林だったが、七十歳の誕生日を機に、現役を退くつもりでいた。事務所の代表も十二年間彼のもとで修業を積んできた後輩の社会保険労務士に譲り、彼自身は、妻と二人で田舎に引っ越し、スローライフを楽しむ計画を立てていた。  本来であれば六十五歳で引退しスローライフに入るという約束を妻と交わしていたのだが、延び延びになっていた。小林のことを信頼する顧問先の会社から「まだ辞めないでほしい」という声が多く寄せられていたからだ。  今日の仕事も、彼の実績を高く評価した大学側から直々に指名されてのものだった。  相談者の列は途絶えなかった。会場全体に熱気がみなぎる。  そんな中、小林のブースに福元という男子学生がやって来た。  起業志望の福元は、従業員を雇うときのルールについて質問をした。小林が、雇用に関する法律や労務管理のポイントについての説明をする。福元が、懸命にメモを取る。後ろに並んでいた学生たちも、思い思いに小林の話をメモしていた。  一通りの説明が終わった。つかの間の静寂が、ブースの中を支配する。  「他にお聞きしたいことはないですか?」と確認した小林に向かって、福元が問いかけた。
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!