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「みんな頑張ってくれているんだが、我々の業界も厳しくてね。新しい業者がどんどん参入してくるし。営業が頑張ってなんとかお客様をつなぎ止めてくれてはいるんだが、単価は下げられるし、正直言って厳しい状況ですよ」
「はぁ」
会社が厳しい状況にあることは新山も感じていた。営業が愚痴をこぼす姿を何度も目にしていたからだ。
「しかし、その話を私にして、なにになるんだろう?」新山は、総務部長が自分を呼んだ意図がわからずにいた。
総務部長が話を続ける。
「そのこともあってだね、社長からリストラの指示が出されたんだよ。人件費を減らせという指示がね。それで、大変申し訳ないんだが、新山君には今月一杯で辞めてもらいたいんだ」
「今月一杯、ですか?」
新山は、自分の耳を疑った。仕事の幅も広がり、いずれは正社員への道が開けるものだと考えていたからだ。
新山は、総務部長の目に視線を合わせた。慌てたように視線をそらせた総務部長が「そうだ」と返事をする。
「でも、解雇する場合は、三十日前の予告が必要なのでは……」
「それは、労働基本法があったときの話だろう? 今はないんだ。だから、いつ解雇しようと会社の自由なんだ」
「……」
「今月末までの給料はちゃんと払うよ。振込日は、来月の二十五日になるがね」
「そうですか……」
新山は、前回の契約更新のときに会社が契約期間を設けなかった理由に気がついた。いつでも好きなときに解雇できる状況で雇用契約を結んでおきたかったのだ。
雇用契約書が作られていないにしても、契約期間を設けて双方が合意してしまえば、会社が契約期間中に解雇しようとしたときに新山が納得しなかった場合、面倒なことが発生する可能性がある。しかし、現実は契約期間が設定されていないのだから、いつでも契約を解除できる。
労働基本法がある時代は、合理的な理由に基づく解雇や解雇を行う場合の事前予告などのルールが会社に課せられていたのだが、今はそのようなルールもない。
労働基本法の廃止に伴う実質的な被害が自分の身に降りかかったことを、新山は悟った。
3.
人材会社を解雇された新山は、ハローワークの紹介で、とある建設会社の事務員として再就職した。
そこでも雇用契約書は作られなかった。もっともその会社は、労働基本法がある時代から雇用契約書は作っておらず、就業規則すらない状態だった。
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