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一度でも誘いに乗ったら最後だと考えていた新山は、今回も適当な理由をつけて断ることにした。
「すみません。今晩、予定があるんですけど」
「予定って、どんな予定だよ?」
「友達と食事に行く約束をしているんです」
「ほんとうなのか? いつもオレが誘うときは用事があるって言っているけど、君は、まっすぐ家に帰ることはないのかね?」
「偶然です。私だって独身女性ですから、いろいろとあるんです」
「別に、オレに対して遠慮する必要はないんだよ」
「そうじゃありません」
「じゃぁ、付き合いなさいよ」
「ですから、今晩は予定があるんです」
「じゃぁ、いつなら空いているのかね? 君が空いているときに合わせるよ」
「そんな、いつと言われましても……」
「なぁ新山君、悪いことは言わない。付き合ってくれたら、給料を上げてやるよ」
最初は軽くいなしていたのだが、あまりにもしつこく身勝手な社長の言い草に対して腹の立ってきた新山は、反論の言葉を口にした。
「社長、それってセクハラですよ」
「セクハラ? なにがセクハラなんだ!」
「ですから、嫌がる女性社員を無理やり食事に誘ったりする行為のことをセクハラと言うんです」
「きっ、君、誰に向かってものを言っているのかわかっているのかね?」
「……」
「不愉快だ! わかった、もういい。君は、今日限りでクビだ! さっさと私物をまとめて帰りなさい!」
突然の解雇宣言に、新山は唖然とした。
そんな新山に向かって、再び社長が「君は、今日限りでクビだと言っているんだ! わかったら、さっさと私物をまとめて出て行ってくれ!」と大声を張り上げた。
突然会社を解雇された新山は、私物を整理し、自宅に戻った。持ち帰った私物を部屋に投げ出し、ベッドの上にあおむけになる。
新山は、悔しい気持ちで一杯だった。
「私って、なんなのだろう……」世の中のすべてから否定されているのではないかという思いが胸の中で広がった。文句を言わず一生懸命働いても、会社側の勝手な都合で雇用契約を打ち切られる。
新山は、ここ半年間に起ったことを思い返した。
人材会社で五回目の契約更新を済ませた。会社の要望で、総務業務とは関係のない仕事も手伝った。 プライベートの予定をキャンセルして、週末の求職者との面談に立ち会ったこともある。
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