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「そういえば、以前、労働基本法という法律があったのですよね?」
「ありましたよ」
「雇用に関するルールについて、ものすごく細かく定められた法律みたいでしたが」
「そうでしたね」
「あの法律に代わるものが、先ほど教えていただいた雇用管理法なのですよね?」
「そうですよ。いろいろとありましたが、今は雇用管理法という形で落ち着きましたね」
「この雇用管理法は、小林先生が作られたんだってことをお聞きしたのですが」
福元が、覗きこむような目をした。
小林が、即座に否定する。
「私が作ったなんてとんでもない。私は政治家ではありませんからね」
「でも、先生が政府に掛けあって、今のような法律になったのではありませんでしたか?」
「まぁ、たしかに私も掛けあったときのメンバーの一人でしたが」
「もしよろしかったら、そのときのことを教えていただけませんか? ボクは、雇用管理の話にとても興味があります。雇用管理法のこともよく理解できましたが、このような法律ができた経緯も知りたいのです。過去からの経緯も知った上で、今の法律のことも理解しておきたいのです」
福元の目は輝いていた。
小林が、戸惑いの表情を浮かべる。
「しかし、話せば長くなりますからね。後ろに並んでいる人もいますし……」
小林の視線の先には、六人ほどの列ができていた。
しかし列をなす学生たちからは、自分たちも話を聞いてみたいという声が上がった。
小林は遠い目をした。紆余曲折だったが、今となっては良い思い出だ。
(あのときのことを若い人たちに語り伝えておくのも悪くはないのかな……)心の中で呟いた小林は、「それじゃ、少し長くなるけどお話ししましょう。みなさん、もっとこちらに寄ってくれますか」と、学生たちを手招きした。
列に並んでいた学生たちがブースに集まった。福元を中心にして固まる。
「あれは、十年前のことだったかな……」昔を懐かしむ表情を浮かべた小林が、静かな口調で語り始めた。
第1章 虐げられた労働者たち
第1節 廃止
1.
二〇××年九月十三日、霞が関にある経済産業省別館八二五会議室に、労働政策審議会の委員たちが顔を揃えた。入り口には労働基本法廃止についての検討会という貼り紙が貼られ、非公開の札がぶら下げられていた。
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