第1章

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 労働政策審議会とは厚生労働省に対する諮問機関であり、法律に基づいた労働政策の在り方を議論し、政府に対して提言する役目を担っていた。公益代表委員、労働者代表委員、使用者代表委員がそれぞれ十名ずつ、合計三十名の委員で構成されている。  企業の海外進出や海外からの労働移入が当たり前のような時代になり、グローバルな視点で労働政策の在り方を論議することが求められていた。そんな中、一番注目を浴びている議題が労働基本法廃止についてだった。  近年、新興国の経済発展や技術力向上が目覚ましく、日本企業も国境を越えた市場間競争を余儀なくされていた。加えて、欧米諸国の構造改革も一段落し、競争に拍車をかけている。さらに、世界レベルでの経済連携の仕組みが構築され、海外からの労働力が日本国内に流れ込んでいた。  それらのこともあって、産業界から、雇用規制の撤廃に関する要望が噴出していた。  今や、技術力だけでは国際競争に打ち勝つことができず、徹底したコストコントロールが求められていた。雇用に関しても聖域扱いにすることはできなくなっている。企業の雇用に対する自由度を保てるような政策が必要だというのが使用者側の主張だった。  その主張に対して、公益側も賛同の意思を示していた。  インターネット技術が発展し新興国の教育水準が向上したことで、世界を股に掛けた事業展開や労働力確保が容易になった現在、国民の生計基盤を維持していくために、雇用の流動化を進める中で、労働者自らが能力を開発し、開発した能力を企業に売り込み、あるいは起業に役立てることのできる環境を整備することが必要だというのが彼らの論拠となっていた。そのために、保護する政策から意識改革を促す政策への転換を図ろうという主張を口にした。  これら使用者側、公益側の主張に対して、労働者側の主張は二分されていた。  このままだと、企業が自衛のために従業員の有期雇用化を進めることが予測でき、さらに雇用の主役がコストの安い海外からの労働力へ移行することで日本人の雇用機会が失われる懸念があるという主張がある一方で、労働者を保護する政策を撤廃してしまうと、労働条件が一段と悪化し、国民生活の貧困化につながるという根強い主張も存在していた。
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