第1章

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 「前回みなさまから頂戴した見解を踏まえて、ユニオン内部で充分な議論を行いました。正規雇用者との垣根が無くなることで非正規雇用者の雇用が拡大するという考え方については、私どもも概ね理解をいたしました。ただ、非正規雇用者と申しましても、正規雇用職に就くことができなかったためにやむを得ず非正規雇用者になられた方や自らの考えで非正規雇用者になられた方、働ける時間が限られるなどご家庭の事情で非正規雇用者になられた方の三つのタイプがあります。最初の二つのタイプについてはみなさま方の見解が当てはまると思いますが、最後のタイプについては当てはまらないのではないかという意見が、ユニオン内で多く出されました」  「つまり、雇用を打ち切られた主婦パートの方々などの行き場が無くなるのではないかということですか?」  「ええ」  「そんなことはないのではないですかねぇ。言い方は悪いですが、企業サイドにとってみれば、安い賃金で安定的な労働力を確保でき、しかも景気に応じた雇用調整も可能な従来型パート戦力を簡単には手放さないと思いますよ」  「それに、主婦パートの方々の中にも、はなから正社員登用の道はないのだからとあきらめて現状の処遇に甘んじている方も結構いらっしゃるかと思いますが、企業内での労働力配置の再編が進むことで、主婦パートの方々の基幹従業員化への道も開けることになるのではないですか?」  滝本の発言に対して、他の委員が見解を口にした。  それらに対して、滝本が、一定の理解を示しつつも、各論的な懸念事項を口にする。  滝本が口にした懸念事項に関して、全ての委員を巻き込んだ議論が展開された。  その結果、中長期的な視点で考えた場合に非正規雇用者の地位向上につながるという見解に理解を示した滝本が、ユニオン内で最終意見調整を行うことを約束し、滝本を巡る議論は終了した。  その後も、何人かの労働者代表委員が掲げた懸念事項に対して議論が行われた。  いずれも、滝本のときと同様に各論的な懸念材料であり、それぞれの委員が、前回までの検討会での議論を踏まえた組合内部での意見調整を行った結果によるものであった。総論的には理解しあえるのだが各論ベースでの懸念が生じていた。  発言したいずれの委員も、今回の議論を踏まえた組合内部での最終意見調整を行うことを約束し、すべての議論が終了した。 2.
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