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彼らは這いつくばる男に向かって少しずつ近づいてきた。
一人はオールバックに黒いサングラス。Xと書かれたジャケットを着たいかつい感じの男。
一人は髪をきっちりセットして、黄色のサングラスをかけている。鋲のついたレザージャケットを羽織るその男はロッカーのようにも見えた。
もう一人は帽子を被り、黒のレザージャケット。不敵に笑うその顔が自分を見下しているように見えるのは、目を隠していないからだろうか。
三方向から歩み寄ってくる彼らを見て、男は必死で立ち上った。だが圧し掛かってくるような重圧はまだ続いている。男がふらつきながら立ち上ると彼らは男の前で立ち止まった。
『歌ってみろ』
帽子の男がそう言った。男は訝しげな表情を浮かべ、帽子の男を睨みつけた。
『歌えよ』
今度はいかつい男が言う。
『お前の夢だろ』
もう一人もそう言って男を見つめている。
夢?
男の脳裏に浮かんだ、やりきれない想い。あの時感じた敗れた夢とは歌う事だったのか?
男の唇が震える。
歌…歌で成功したい。それは、それだけは消すことのできない想い。
男は手を振り上げると全力で歌い出した。
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