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第二章「Iori」
ある夏の日、イオリと彼は生まれた。そしてある冬の日、彼は倒れた。
もともと体の弱かったイオリたちに親たちはあきれ気味だったが、彼が倒れたことによって本当に見捨てられてしまった。
『帰ろうか、』
病院からの帰り道、ここでは嘘をついてはいけないというルールがある。
イオリはちゃんと先生に言われたことを彼に告げていた。彼の病気のこと、彼の余命のこと…。ただ、一つを除いて…。
重苦しい空気が二人の間に流れる。
彼に合わせてゆっくりと歩きいつも使っている駅のホームにあるベンチに腰掛ける。彼は、ポケットに手を突っ込んでうつむいていた。
「ちょっとあんたたち!!」
突然、ホームに大声が響いた。
声のほうを見ると買い物袋を抱えたおばさんが起こった様子で立っていた。
「あんたたち、若いくせにそこに座ってんじゃないわよ!!まったく、最近の子は自分のことしか考えない…」
イオリは小さな声で謝りながら席を立つ。
「あんたもいつまで座ってんのよ」
おばさんが彼を睨みつける。
彼はチラッとおばさんを見てため息をついた。
「おばさんさぁ、なんでそんなに座りたいの?」
「はぁ?そんなの疲れてるからに決まってるでしょ?それに、私は腰に持病を抱えてて…」
「ふーん、俺も疲れてるんだけど。」
「何甘ったれたこと言ってんのよ!」
「何時間も体中いじくりまわされて、病院からここまで歩かされておまけに余命まで宣告されて疲れないわけないだろ?」
「なっ…、」
『やめて!』
彼がイオリを見る。
「なんだよ。」
『そんな風に…言わないで…。』
彼はまたため息をつくとベンチから立ち少し離れたところの壁にもたれかかるようにして立った。
銀色の電車が滑り込んでくるとたくさんの人が中から出てきた。
彼が見えなくなる。
『 !!』
イオリは彼の名前を呼んだ。
その瞬間、
『っ!!』
体中が裂けるような痛みに襲われた。膝をつき、思いっきり咳き込むと大量の血液が吐き出された。
これがただ一つ、彼に話していなかったこと…。
私も彼と同じ病だった。
『だ、れか…っ…』
絞り出すように声をだしゆがんだ視線で辺りを見回す。
だが、その場にいた人はみななぜか驚いたような表情をして線路のほうを見ていた。彼もそうだった。
『助けて…』
誰もイオリを助けてくれなかった。
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