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「裕…?」
「えっ…」
上がる息を整えながら、
マンションの入り口を出たと同時に視界に入った麻衣の姿。
インターフォンの前で、携帯を握り締めながら、たたずんでいる。
「ここオートロックだったんだよね…」
「あぁ…」
「部屋番わからなくて、ポストに表札もないし…」
「508だよ」
「そっか!覚えとく!」
いつも以上に元気な声のトーン。
さっき喧嘩別れしたとは思えないくらいに明るく振舞ってくる。
だけど、
一度も俺の方を見ようとしない。
「どっか出かけるところだった?」
「えっ?あ、あぁ…」
少しだけ顔を上げた麻衣の表情ははっきりわからないけど、
夜風が吹いてなびいた髪が、
麻衣の赤く腫れた目を俺に見せてきた。
そんな姿を見て、ぎゅっと目蓋を強く閉じた。
どうして俺は、麻衣にこんな顔させているのかと。
「麻衣…やっぱり俺と…」
「裕…がんばってね」
俺の声をさえぎる様に口にした言葉。
そんな麻衣の表情には笑顔さえ見えて。
「麻衣…?」
「私ね…怖かったの。9年前と同じになるのが凄く怖かった。でも、もう違うよね?!私達…大人になったでしょ?」
大きな瞳に、みるみるうちに溜まっていった涙は、ポタポタッと地面に落ちていった。
麻衣…。
どうして急にそんなこと…。
そう言わせたのが自分だと思うと、
やりきれない気持ちになって思わず麻衣を引き寄せ抱きしめた。
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