アホの勘あなどるべからず

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話を訊いていくと、ところどころの記憶…というよりおおよそ一番肝心な部分がごっそりと抜け落ちていた。 キス魔の自分を完全忘却させる、なんともアリガタイ脳みそだと感心せずにはいられない。 しかし、抱きついてきた部分だけは少し覚えていたらしく。 「私、本当に抱きついたん…ですか?」 と、今更恥じらい全開でそんなことを聞いてくる。 「抱きついたどころか、しつこいくらいにキスしてきたよ」と教えた時点でこの場で発狂されかねない。 そのせいでブラックリストに載るのはまっぴらごめんだ。 そんでもってこの人のことだから、想いを自覚して、深みにハマるのは目に見えてる。 そんなこと、誰も求めてない。 「一人で歩けなかったから俺に寄りかかってたけど」 適当についた俺の嘘に思いっきり肩の荷をおろし、安堵しきった表情を浮かべた。 さんざんこの俺で好き放題やっといて、ハイこれで終わりにできるとでも思ってるのだろうか。 「でも森田さん、笑いながら吐いてたよ」 「え…………………」 みるみるうちに気力が失い、天日干しされたような魚みたく上半身が布団にうなだれていく。 これくらい落ち込んでもらわなきゃ、こっちも採算取れないからな。
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