第1章

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 俺は思わず笑った。 「何がおかしい」 「いや・・・いい大人が暴力で解決しちゃいけないと思うな」 「・・・気をつける」 「まあ、いいんじゃない?人間の性質なんてそうそう変わるもんじゃないし」  特に今年二八になる三十路の男の性質は絶対変わるもんじゃないと思うし。 「余計な付け足しをしたな」 「えっ、聞こえてた?」 「いつものことだ」  桐谷はそう言いつつ腕時計を見る。 「・・・俺はそろそろ行く。会議が終わるは十九時過ぎになると思う。今日は適当な時間に帰って・・・」 「待ってる。焔のところで時間潰してるから。」 「そうか。じゃあ・・・」  と、片手を挙げた桐谷だったが、ふと俺の足下を指さした。 「凛、聞かれたと気づいてから一歩退くのはやめろ。癖になってるぞ」  自然と空いていた一歩の距離に俺はため息混じりに答える。 「・・・気をつけまーす」 「特に俺の時には遠慮するな。お前の声は慣れている」 「・・・はーい」  そりゃ、五年近く一緒にいれば俺の声だって慣れるだろう。だけど、あんたが慣れたって俺は慣れないんだよ。  自分の心を他人に聞かせる。一方的に、自分だけの声を。  そんな能力、この世で誰が望んで欲しがるだろうか。 「お前の力は恥じる物モノじゃない。」 「・・・今のも聞こえてた?」  桐谷はただ片目を細め、さあなと言った。
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