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陽の光が、朝の爽やかさから昼の激しさに転じつつある。
「それでは、始め!」
中庭で試合の開始を告げる声が響いた。
二人の男が互いに手にした棒を叩き合わせ始める。
庭に面した廂(ひさし)の下、横一列に座した越(えつ)の臣下たちはその様子を見守った。
日陰とはいえ、正装した男たちにはこの南方の地の蒸し暑さは本来、耐え難い。
列臣たちはいずれも退屈さを儀礼的な無表情に紛らした面持ちで、時折額の汗を拭っていた。
しかし、ただ一人、末席に座した男だけは、まるで涼やかな風にでも吹かれている様に、手にした白い羽作りの扇子を膝に持ったまま、遠方を眺める目をしていた。
これといって際立つ美点などはない、平凡な顔立ちの男である。
否(いな)、平凡というより、極めて特徴に乏しい貌形をしていた。
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