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「ごめん、言いすぎたよ」
いつの間にか夫が背後から私を抱きしめていた。
武道の心得のある夫は頼りがいもある。私を抱きしめる腕は、太く、力強い。
この逞しい腕に私も、息子も守られている。
そう思った途端、さっきまで夫を責めていた気持ちが罪悪感へ変わった。
わかっている。彼に、感謝しなければいけないことは。
けれども、一方でこうも考える。
でも、この腕で、本当にあなたが守りたかったのは、私だったの?
私は、こう問いかけそうになるのを、いつもすんでのところで我慢しているのだ。
今らさらこんなことを言って何になる?何にもならない。それどころか、全てが崩れてしまうかもしれない。
固く強いはずの家族の絆は、でも、本当はものすごく脆い。けれど、そのことを知っているのは私だけだ。
私は上り詰めた言葉を飲み下すと、夫の腕に顔を埋めた。
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