わりとテンプレでもないプロローグ

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   紅坂透流(くおうさか とおる)は、逆召喚陣の前に居た。  地面に描かれた、それ(逆召喚陣)は既に稼働を始め、光を放っている。  あとは、その中央に飛び込むだけだ。 「覚悟はよいのじゃな?」  透流の師匠でもある天野夢幻(あまの むげん)が、透流に尋ねる。  聞くまでも無いことだ。他に方法は無い。  それは念を押すという意味からの声掛けではなく、透流の無事、そして成功を祈っての言葉がけだった。  事の発端は、数日前に遡る。  六鍵の守護者(シクスベヒター)である透流は、『冥界の通行手形(ユンターヴェルトゲゼッツ)』の異名を持つ少女、武藤芙亜(むとう ふあ)とともに冥界の門を潜り抜けていた。  目的はひとつだけ。  復活の兆しを見せる冥界王、デューナゾードの再封印を施すためである。  暗く、周囲にはほとんど何もない空間。だが薄暗いものの、微かに光は差している。  その場の中央には黒く蠢く大きな物体。これこそが封じられた冥界王の本体。  そして、その周囲には六芒星を描くように六つの台座が据えられていた。  それぞれの台座に一つずつ、実体化させた鍵を差し込んでゆく透流。  芙亜はそれをただ黙ってじっと見守っている。  透流をこの場に誘うこと。それで彼女の役割は半ば終わっているのだ。 「さてと。あとはじいさんから聞いた呪文だな……」  透流は詠唱を始める。  とうの昔に丸暗記してしまっている。  すらすらと、それでいて淡々と透流は詠唱を続けた。  呪文を結べばすべてに片が付く。  透流の長かった旅が終わろうとしていた。  透流の詠唱が最終文言に差し掛かる。  透流は最期まで、詰まることなく流れるように唱え終えた。  これで儀式は全て終わり……のはずだった。 「どういうことだ? 起動しない?  呪文をとちったのか!?」  透流は芙亜を振り返り見た。
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