3275人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
「よ、よ、呼べないよ、いきなり！」
「じゃあ、このまま室長？」
「それは…」
「呼んじゃえ。呼んじゃえ」
「…だって…私だって『野崎くん』だもん」
彼女は唇を尖らせた。
拗(ｽ)ねた彼女がさらに可愛い。
「呼んで欲しいなら…そう言ってみたら？」
彼女はため息交じりの小さな息を吐く。
そんな彼女に私は言った。
「素直になるって…本当に大切だと思う」
彼女がじっと私を見た。
「…社長…渉さんて、強引で強気で、少し怖いとも思うでしょう？」
「…思う」
「あ、やっぱり？ふふ、でもね、私には優しいよ。本当はいろんな人にやさしい…あんまりそんな風に見えないんだけどね」
「…そうなんだぁ」
「私、渉さんにだけは素直な気持ち、ちゃんと言うようにしてるよ。…お互い、言えずにすれ違っちゃったことがあるの。あの時は本当に…苦しかったから…」
「…そんなことが…？」
「…うん。だから、祐子ちゃんも、ね？」
「…うん。そうする」
彼女の返事を聞いたところでもう一度私の携帯が震え出す。
相手はもちろん…
室長だ。
きっと店の外まで来ているのだろう。
さっきは到着したらもう一度電話をすると言っていた。
「…室長から…？」
彼女が私に聞いたのを、私は首を振って返事をする。
彼女を驚かせるために。
「ううん、別の人。ちょっと行ってくるね」
私は室長を迎えにもう一度店の外に出た。
最初のコメントを投稿しよう！