刷りたてのポスターのような夏

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勇人もそんな恵まれた連中の一人だ。親が所有している都内のビルに住み、近くの駐車場に自分の車を置いている。 和志も勇人と二人で何度かその車で遊びに出かけた。東京に出てきてからの人間関係では車を持っている親しい知人は勇人しかいない。 勇人なら香織を乗せてドライブ出来るんだな。あの車で… 和志の中に今まで感じた事のない漠然とした焦燥感のような熱さが不意に沸き上がってきた。 勇人の隣でその完璧な横顔を見ながら飛んで行く景色を眺めてワクワクしない女の子なんていないだろう。 目的地が何処であれ、サイドシートに座った女の子は目的地に着くはるか手前で勇人に魅了されるに違いない。 今、和志の目の前にいる奇跡のような女の子だってきっと例外ではないはず。 和志の中に浮かんだ一瞬の思考は自分でも意外なほどの鮮烈さで和志の中に残った。 (ダメだ。絶対。この子だけは。)
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