第1章

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目的の駅に着き、改札口を出ると、お嬢様は辺りに漂う潮の香りをたっぷりと吸い込みました。奥様はお嬢様の手を取ってロータリーのほうへと歩いて行きました。お婆様の家からもお迎えの車が来ていましたので、それに2人は乗り込むと、もうお嬢様はいてもたってもいられないというご様子で窓を全部開けて目をキョロキョロ。黒い革靴もお嬢様と同じ気持ちでずっとウキウキしていました。 お婆様の家に入ると奥様はとても嬉しそうに忙しくしました。奥様のお母様でしたし、家にはお兄さん夫婦も一緒に暮らしていらっしゃいました。台所からは笑い声が聞こえていました。お婆様のご病気も軽い風邪ということで大したことはありませんでした。お嬢様はお婆様に挨拶をすると従姉妹と海のほうに遊びに行かれました。もちろん黒い革靴を履いています。黒い革靴はサクサクという砂浜の感触に驚きました。 「なんて気持ちのいい音だろう、なんて気持ちのいい肌触りなんだろう」 初めて聞く波の音もうっとりするほど素敵です。それに初秋の海は人もまばらでとても綺麗なものです。そのうちお嬢様と従姉妹は裸足になると、一緒に波打ち際までキャアキャアと言いながら行ったり戻ったりしました。砂浜にきちんと揃えて置かれた黒い革靴は心がとても穏やかになって目を閉じました。静かな波音と少女たちのはしゃぐ声。そよそよと心地よい潮風に吹かれながら白い革スニーカーのことを考えました。彼にこのことをきっと教えてあげましょう。 あっという間に1日は過ぎて、奥様とお嬢様がご自宅に戻られる日になりました。お婆様はお嬢様を抱きしめると、とても楽しそうに、でもちょっぴり悲しそうに「いつでもいらっしゃいね。お友達も連れてきていいのよ」と言われました。お嬢様にしても従姉妹と仲良しでしたので、少し寂しい思いがありました。砂だらけになっていた黒い革靴でしたが、朝には奥様がまたピカピカにされたので、まったく履いて来た時と同じになっていました。
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