ボーダーライン - 判らない

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「おはよう、山田君」 「ん……ああ……」  自席に座りながら声を掛けてきた澪に、隣の山田はビクリとして曖昧に返事をした。澪とはとても目を合わせられない。しかし、目を伏せるとギプスで固定された右腕が見え、嫌でもきのうの出来事が思い出される。もう話がついたことではあるが、それでもバツの悪さと気まずさが消えるわけではない。 「あの……」  澪は机から身を乗り出し、小声で続ける。 「えっと、その……きのうはゴメンね。まだちゃんと謝ってなかったから」  頬を染めてはにかみながら謝罪の気持ちを伝えてきた。山田としてはもう終わったつもりでいたが、考えてみれば自分は謝罪どころか事実をひた隠しにして逃げていただけである。彼女は勇気を出してあの場を取りなしてくれたというのに。 「俺も……ごめん……」 「うん、じゃあ仲直りだね」  澪はほっと安堵の息をつきながらそう言うと、まだ少し頬を染めたまま、いつもと変わらない可憐な笑顔を見せた。山田もつられて笑顔になる。もう二人の間にわだかまりは感じられなかった。  ただ、双子の兄が後ろから仄暗い目で眺めていたことに、山田は気付いていなかった。
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