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「じゃあな」
校門を出たところで別れを告げた。これまでに何度も帰るところを見ていたので、遥の家が逆方向であることは知っている。もっとも、山田が見ていたのは遥ではなく澪の方だが。当然ながら兄妹なので同じ家に住んでおり、どちらかに日直などの用事があるとき以外は、たいてい友人たちも含めて一緒に帰っているようだった。
しかし、遥は山田の家の方へ足を進めた。
「おい、たち……遥、おまえの家はあっちじゃないのか?」
「圭吾を家まで送るんだよ」
「いやいやいや、骨折したのは脚じゃなくて腕だからな?」
「送る必要はないだろうけど、僕が送りたいから」
前を歩いていた遥はそう答えて振り返ると、ちょこんと小首を傾げる。
「駄目?」
「あ、いや……」
澪とまったく同じ顔で可愛らしくそう尋ねられては、何も言えなくなる。男であることはわかっているはずなのに。そして、度が過ぎた世話焼きを不気味に感じているのに。何か企んでいるのだろうか--その場に立ちつくしたまま眉を寄せて考え込んでいると、彼に手首を引っぱられた。
「帰るよ」
「……ああ」
結局、問いただすことも断ることもできず、彼と並んで自宅まで帰ることになった。
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