ボーダーライン - 妹のため

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「今日もそいつと帰るのか?」  放課後、日直で残っていたクラスメイトの富田が、席に座っていた山田を顎でしゃくりながら、ノートのコピーをとって戻ってきた遥に尋ねた。富田は遥たちといつも一緒に帰っていた友人のひとりだ。遥は無表情のまま山田にノートのコピーを手渡しつつ答える。 「腕が治るまではそうするつもり」 「何もおまえがそこまでしなくてもな」 「やりたくてやってるだけだから」 「澪が怪我させた責任からだろ?」  山田はビクリとする。  この骨折が澪によるものだということは言わない約束になっていた。澪の側も、山田の側も、知られたくないという互いの利害が一致したためだ。遥はきょうだいなので知っていて当然だと思ったが、なぜ富田まで知っているのだろうか。 「詳しいことは聞いてないけど、わざとじゃなくて事故だって言ってたし、家まで送る必要はない気がするんだよなぁ」  どうやら骨折に至った経緯までは知らないようで、密かにほっとしていると--。 「おまえもそう思うだろ?」  ふいに富田に話を振られた。  家まで送る必要があるかと言われればまったくない。山田自身も最初は断ろうとしていたくらいだ。なのに、なぜだかそう答えることができなかった。せめて何か言葉を返さなければと焦るものの、頭が真っ白になってしまい何も思いつかない。しかし--。 「余計なお世話だよ」  遥が溜息まじりにそう言い捨てた。そして、机に置いてあった山田の鞄を掴むと、行くよと声を掛けてすたすたと歩いていく。山田はコピーの紙束だけを持って立ち上がり、小走りでそのあとを追いかけていった。教室を出て行く間際にちらりと後ろを見やると、富田は黒板消しを持ったままきょとんと立ちつくしていた。
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