ボーダーライン - 妹のため

9/9
33人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
 その日以降、遥の態度は骨折以前のものに戻ってしまった。  まるで、あの三週間が存在しなかったかのように。  夢でも見ていたのかと思うくらいに。  一緒に帰ることはもちろん、名前を呼ばれることも、話をすることも、目を合わせることすらなくなった。意識的に無視しているというよりは、意識さえしていないといった感じだ。何の接点もないただのクラスメイトに逆戻りである。数日後の席替えで席も遠くに離れてしまった。  すっかり忘れていたが、遥が山田の世話を焼いていたのは妹のためだったはずだ。山田がまだ彼女を諦めていないとわかったので、責任を感じている彼女の代わりに世話を買って出たのだろう。どこへ行くにもついてきたのは、もしかすると彼女に近づかせないためだったのかもしれない。  しかし、たとえきっかけはそうであったとしても、三週間も一緒にいて少しは仲良くなれたと思っていた。笑顔だって見せてくれていた。なのに--彼が何を考えているのまるでわからない。自分から声を掛ければ良かったのかもしれないが、気のせいか冷ややかな拒絶を感じて、その勇気が持てなかった。  もちろん他に友達がいないわけではない。けれど、誰といても無意識に遥を目で追っていた。自分でも少し異常だと思うくらいに。どうして彼にこれほどまで執着するのか、彼に何を求めているのか、よくわからなくて微妙な心持ちになる。それでも渇望が薄れることはなかった。  しかし、結局ほとんど喋ることも叶わないまま、二年生になって別々のクラスになった。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!