102人が本棚に入れています
本棚に追加
/104ページ
「加藤はさ……、誰かを好きになったこと、ある?」
「…………え?」
潜められた声に思考が途切れた。
「すきなひと」
一言一句、ゆっくりと囁くように動く唇。
不意討ちの言葉に、自分の頬が強張った。
「――――恋愛対象としてなら、……いない」
「今まで? ……一度も?」
「ないよ」
「じゃあ、…………初恋もまだってこと?」
「うん」
「――――そう……」
「ともは、いるの……?」
そう問い返すと、ともはふわりと微笑んだ。
「うん。絶対に手に入らない人」
「……ってことは、告白して振られた、とか」
小さく首を横に振る男を、じっと観察する。
相手はこの高校の生徒だろうか。まったく気付かなかった。
好きな子がいるそぶりなんて微塵も感じさせなかったから、急に言われてもピンと来ない。
かといって、冗談を言っているようには見えない。ということは、今僕はこの友人の相談に乗るべきだ。
最初のコメントを投稿しよう!