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こういう時、何と返せば正解なのだろう。
返答に詰まる度に失望されそうでヒヤリとしてしまうけれど、滝川先輩は気にしていないようだった。
「晴れの日の午後に誕生しましたって感じだな。晴ちゃん……は、なんか違うか。晴午君、晴」
「はい」
「……晴午」
「はい」
「いやあ、なんか照れる」
「そうですか」
「やっぱり加藤でいいか、まだ」
「はあ……。そういえば、石ちゃんって呼ばれていた頃もありましたけど」
「イシ? 名前のどこにも入ってないぞ」
「笑わないでくれますか」
「任せろ」
「石頭から名付けられました」
「…………くそっ」
「融通のきかない奴だ、って……、あ! もう……笑わないって言ったのに」
「ご、ごめんね」
笑い声を無理に抑えたせいでむせた男の背中をさすっていると、少し涙目になった顔を自分で指差した。
「俺の下の名前知ってる?」
即答出来たけれど、それを隠して掌を差し出した。
滝川先輩の長い指先が掌を滑っていく。
「シズオミ。静かな臣、ね」
「静臣さん」
「はい」
精悍な顔をくしゃっと綻ばせた先輩に意識を奪われる。部活中には見たことが無かった。
「――――本当だ……。こういうのって、照れるものなんですね。僕もまだ滝川先輩でいいです」
「それは残念だな」
先輩はいつものように大きめの口をニヤリとさせる。
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