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「滝川先輩に親友がいないっていうのは意外でした」 「そう?」 「はい。何人もいそうな気がします」  窮屈そうに座席に納まる滝川先輩が、なんだか可愛らしく見える。 「それが、いないんですよね~。小学生の頃からバレーチームに入ってたし、頭の中はそればっかだったな。確かに仲間はいっぱいいたけど、親友かって訊かれると……違うんだよね、これが。難しいな」  そんな親友のポジションに何の面白味も無い僕を選んでくれたなんて、未だに信じられない。 「後悔しないでくださいね。後から、やっぱり無理って言われそうで怖いんです」  ぽつりとこぼした言葉を、笑いながら否定してくれる。 「それなら大丈夫。癒してくれそうな人っていうのが、俺の第一条件だから」 「はい?」  開演を知らせるブザーが鳴り響く。  徐々に薄暗くなって、滝川先輩の顔が見えなくなってしまう。  映画CMが流れ始め、僕の方へ上体を傾けてくるのがわかった。 「誰でも良かったわけじゃない」  その逞しい体躯に相応しい低音で耳元をくすぐられ、ゾクリとする。 「加藤はどうなの。本当に……俺でもいいの」  ここが真っ暗で良かった。  今の顔色に気付かれないで済む。  聞こえるように自分も顔を寄せようとしたら、先輩の顔に鼻をぶつけてしまった。 「あっ……。す、すみません。距離感つかめなくて」  慣れないことをすると、いつもこれだ。  おかしそうに身体を震わせている先輩を見て、自分の鈍臭さを呪う。  『考え中です』と囁くつもりで先輩の耳元に唇を寄せた時。  急に、ぱっと僕から離れていってしまった。  滝川先輩が耳を押さえて、こちらを見ている。  何かしてしまったかなと不安になった。 「どうかしましたか」 「……いや、ちょっと。びっくりして」  もしかして、耳が弱いのだろうか。  それは、あまりにもイメージとかけ離れていたので、ついふき出してしまった。  そんな僕を見て、滝川先輩もまた嬉しそうに笑ってくれた。
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