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第1章
家の窓から景色を眺めるのは、もはや日課と言って良いほどに毎日のことだった。私は、窓を開けて庭にある花を見つめていた。
あれは、アイリス(あやめ)だろうか。図鑑で見たことはあったがはっきりとしたことは、わからなかった。
その花の葉先から垂れる雫が美しいと思えてしまうのは、あまり雨が降らない土地のせいかもしれない。前日、降った雨のおかげで今日は、退屈しないですみそうだった。
扉を叩く音が聞こえたので、その方へ顔を向ける。じぃやでしょ?入って良いわよと私が言うと扉が開く音が聞こえた。
じぃやが扉から体を半分だけ見せて言った。
『お嬢様。また、外を見ておられるのですか?お身体に触るので窓は、お閉めください』
『もともと身体は、悪いんだから別に良いじゃない』
私の嫌みのこもった言い方にじぃやは、顔色を変えない。本当は、こんな言い方をしたくないと思っていたが長年、屋敷に閉じ込められているせいか、私の性格は一向に直る気配がなかった。
『用件は、何?また、お父さまが帰ってきたの?』
私は、お父さまが嫌いだった。私の部屋には、来ないし、屋敷には閉じ込める。唯一、感謝しているのは、広い屋敷に住める財産を所持している。それだけしかなかった。
そうでございますと言ってから旦那様が待っておりますのでお早めにと、付け足して部屋の扉を閉めた。
私は、外の景色を眺めながら、このお屋敷から出て自由に暮らせたら、もっと景色が違って見えるかもしれないと呟いた。
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